こんにちは、黒羽です。
今回は、訪問鍼灸マッサージの施術者として、ぜひ知っておいていただきたいお話をします。
それが、「示談」と「錯誤(さくご)」についてです。
ちょっと難しそうな言葉ですよね。
「示談なんて、交通事故とか大きなトラブルのときの話でしょ?」
「自分は患者さんとトラブルになったことがないから関係ないよ」
そう思っている方もいるかもしれません。
でも、実はそうとも限らないんです。
訪問鍼灸マッサージの仕事をしている以上、施術中の事故や患者さんとのトラブルが絶対に起こらないとは言い切れません。
例えば、
・施術後に患者さんの痛みが強くなった
・施術中に患者さんが転倒してしまった
・マッサージ後に内出血が発生した
・施術によって症状が悪化したと訴えられた
・施術内容についてご家族からクレームが入った
こうしたことは、どの施術者にも起こり得ます。
もちろん、日頃から十分に注意して施術することが大前提です。
しかし、どれだけ注意していても、予期せぬトラブルが発生する可能性はあります。
そして、実際にトラブルが起きたとき、対応を間違えると非常に厄介なことになる場合があります。
特に気をつけたいのが、
「示談したから、もうすべて解決した」
と思い込んでしまうことです。
実は、示談をした後でも、再び損害賠償を求められるケースがあるんですね。
今日は、その理由についてお話ししたいと思います。
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■ そもそも「示談」って何?
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まず、示談について簡単に説明します。
示談とは、事故やトラブルが発生した際に、当事者同士が話し合いによって解決することです。
例えば、施術中に患者さんがケガをしてしまったとします。
患者さんが病院を受診し、治療費が発生しました。
そこで、施術者側と患者さん側が話し合い、
「今回の事故については、治療費などを含めて○万円を支払うことで解決しましょう」
と合意する。
こうした解決方法が示談です。
通常は、その内容を示談書という書面にまとめます。
示談が成立すれば、当事者は合意した内容に拘束されるのが原則です。
そのため、適切に示談を行うことは、トラブルを解決するうえで重要な方法の一つです。
ただし、ここで一つ問題があります。
それは、
示談をした時点で、事故による損害の全体像が分かっているとは限らない
ということです。
これが、後々のトラブルにつながる場合があります。
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■ 示談したのに、また請求される?
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例えば、こんなケースを考えてみてください。
ある訪問マッサージの施術者が、高齢の患者さんに施術をしていました。
施術後、患者さんが胸のあたりに痛みを訴えました。
念のため整形外科を受診していただいたところ、当初は打撲と診断されたとします。
施術者は、
「大きなケガではなさそうでよかった」
と思い、患者さんと話し合いました。
そして、治療費などを負担することで示談が成立しました。
施術者としては、これで一件落着です。
ところが、その後も患者さんの痛みが続きました。
別の医療機関で詳しく検査を受けたところ、肋骨の骨折が判明したのです。
患者さん側は、
「打撲だと思って示談したのに、実際には骨折していた」
「こんなに長く治療が必要になるとは聞いていなかった」
「この金額では納得できない」
と主張しました。
施術者としては、
「いやいや、もう示談書にサインしてもらいましたよね?」
と言いたくなるでしょう。
しかし、患者さん側が追加の損害賠償を求めてくる可能性はあります。
もちろん、請求されたからといって、必ず追加で支払わなければならないわけではありません。
示談の内容や成立した経緯、事故と症状の因果関係などによって判断は変わります。
ただ、示談をしたからといって、どんな場合でも追加請求が認められなくなるとは限らないんですね。
※これは説明のための想定事例です。
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■ ここで出てくるのが「錯誤」という問題
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さて、ここで登場するのが、
「錯誤(さくご)」
という法律用語です。
簡単にいうと、重要な事実について思い違いをしたまま意思表示をしてしまうことです。
例えば、先ほどのケースです。
患者さんは、
「今回のケガは軽い打撲で、すぐに治るだろう」
と思って示談に応じました。
ところが、実際には骨折していて、長期間の治療が必要だった。
つまり、示談をするときに前提としていた事実と、実際の状況が違っていたわけです。
こうした場合、錯誤が問題になる可能性があります。
ただし、ここは少し注意が必要です。
法律上、単なる勘違いや説明不足があれば、何でも錯誤として示談を取り消せるわけではありません。
民法では、錯誤による意思表示の取消しについて一定の要件が定められています。
また、示談の後に予想できなかった重大な後遺症などが判明した場合には、錯誤とは別に、示談の対象となった損害の範囲が問題になることもあります。
つまり、
「示談書にサインしてもらったから絶対に安心」ではない
ということです。
ここを知っているかどうかで、トラブルが発生したときの対応も変わってきます。
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■ 示談を急いではいけない理由
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僕が特に注意していただきたいのが、示談を急いでしまうことです。
施術事故が発生したとき、施術者としては、できるだけ早く問題を解決したいと思いますよね。
患者さんやご家族から強く責められるかもしれません。
施設の責任者から説明を求められるかもしれません。
ケアマネジャーさんにも報告しなければならないかもしれません。
そうなると、精神的にもかなり負担がかかります。
「とにかく早く解決したい」
「お金を払って終わるなら、その方がいい」
そんな気持ちになることもあるでしょう。
しかし、ここで焦ってはいけません。
特に、ケガの程度や今後の治療経過がはっきりしていない段階で、最終的な示談をしてしまうことには注意が必要です。
例えば、高齢の患者さんの場合です。
高齢者は骨粗しょう症などによって骨が弱くなっていることがあります。
そのため、比較的小さな外力でも骨折が起こる可能性があります。
また、事故直後には分からなかった症状が、後から明らかになることもあります。
もちろん、施術後に痛みが出たからといって、必ず施術が原因とは限りません。
だからこそ、医療機関での診察や必要な検査を受けていただき、事実関係を確認することが大切です。
事故の全体像が分からないまま、焦って最終的な示談を進めない。
これは覚えておいてほしいと思います。
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■ 施術者がやってしまいがちな3つの失敗
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では、実際にトラブルが起きたとき、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?
僕が特に気をつけたいと思うのは、次の3つです。
【1】その場で安易に責任を認めてしまう
例えば、施術後に患者さんから、
「先生のマッサージで痛くなったんじゃないですか?」
と言われたとします。
ここで、
「そうですね。全部私の責任です。治療費はすべて払います」
と、その場で約束してしまうのは慎重になるべきです。
もちろん、患者さんの訴えを無視してはいけません。
体調を確認し、必要に応じて受診を勧めることが最優先です。
しかし、事故の原因や責任の所在が明らかになっていない段階で、損害賠償の範囲まで約束する必要はありません。
まずは事実確認を行い、加入している賠償責任保険の窓口などに相談することが大切です。
【2】口約束だけで解決しようとする
例えば、
「今回は治療費をお支払いしますので、これで終わりにしましょう」
と口頭で話し合ったとします。
その場では患者さんも納得していたかもしれません。
しかし、後日、
「そんな約束はしていない」
「治療費だけではなく、慰謝料も支払ってもらうつもりだった」
と言われる可能性もあります。
こうなると、言った・言わないの問題になります。
だからこそ、重要な合意については、内容を明確にして記録に残すことが大切です。
【3】自分だけで示談を進めてしまう
これも注意してほしいところです。
事故が起きると、患者さんやご家族から直接、
「どう責任を取ってくれるんですか?」
と言われることがあります。
その場で何とか解決しようとする気持ちは分かります。
しかし、加入している賠償責任保険によっては、保険会社への連絡や事前承認などについて条件が定められている場合があります。
勝手に賠償金額を約束してしまうと、後から保険対応で問題になる可能性もあります。
そのため、事故が発生した場合は、まず保険の窓口に連絡し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
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■ 「説明したつもり」が一番怖い
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ここからは、施術事故だけでなく、普段の患者対応にも関係するお話です。
例えば、こんなことはありませんか?
患者さんに施術内容を説明した。
料金についても説明した。
施術に伴うリスクも伝えた。
自分としては、きちんと説明したつもりです。
ところが、後になって患者さんから、
「そんな話は聞いていません」
と言われてしまう。
施術者としては、
「いや、ちゃんと説明しましたよ」
と言いたくなりますよね。
でも、ここで考えたいことがあります。
それは、
説明したことと、相手が理解したことは必ずしも同じではない
ということです。
例えば、訪問マッサージの施術を開始する際に、
「施術後に一時的な痛みやだるさが出る場合があります」
と説明したとします。
しかし、患者さんは、
「マッサージを受ければ、必ず体が楽になる」
と思っていたかもしれません。
そして、施術後に痛みが出たことで、
「こんなことになるなんて聞いていない」
と不満を感じる場合もあります。
もちろん、説明を受けた患者さんが、すべてのリスクを正確に理解できるとは限りません。
また、同意書にサインをもらったからといって、すべての責任が免除されるわけでもありません。
だからこそ、患者さんに分かりやすく説明し、疑問がないか確認することが大切なんですね。
なお、こうした説明の行き違いが、すべて法律上の錯誤に該当するわけではありません。
ただ、認識の違いが後のトラブルにつながることは十分に考えられます。
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■ 訪問施術では、ご家族への説明も重要
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訪問鍼灸マッサージの場合、もう一つ気をつけたいことがあります。
それが、ご家族とのコミュニケーションです。
例えば、患者さん本人には施術内容を説明していても、ご家族には十分に伝わっていない場合があります。
特に、高齢の患者さんや認知症のある患者さんでは、説明内容の理解や意思確認に配慮が必要な場面もあります。
もちろん、患者さん本人の意思を尊重することが基本です。
そのうえで、必要な範囲でご本人の同意を得ながら、ご家族や関係者とも情報を共有しておくことが大切です。
例えば、施術後に患者さんが痛みを訴えたとします。
ご家族から、
「どうしてこんなことになったんですか?」
と質問されたときに、施術内容や当日の状況をきちんと説明できるでしょうか?
ここで重要になるのが、日頃の施術記録です。
何月何日に、どのような施術をしたのか。
施術前の状態はどうだったのか。
施術中に何か変化はなかったのか。
施術後に患者さんは何と話していたのか。
こうした情報が残っていれば、後から事実関係を確認しやすくなります。
反対に、何も記録していなければ、記憶だけに頼ることになります。
数週間前の施術内容を、細かく覚えているでしょうか?
正直、難しいですよね。
だからこそ、施術録をきちんと残しておくことが重要なんです。
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■ 示談書に「追加請求しない」と書けば安心?
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ここも、勘違いしやすいポイントです。
示談書には、一般的に、合意した範囲について追加の請求をしないことを確認する条項が設けられる場合があります。
いわゆる「清算条項」と呼ばれるものです。
例えば、
「本件に関して、合意した内容以外に債権債務が存在しないことを確認する」
といった趣旨の条項です。
こうした条項は、トラブルの解決範囲を明確にするうえで重要です。
しかし、
「今後、一切請求しない」と書いておけば、どんな場合でも絶対に追加請求されない
というわけではありません。
示談当時には予想できなかった重大な損害が後から判明した場合など、合意の効力や範囲が争われることもあります。
また、示談書の内容が不明確であれば、そもそも何について解決したのかが問題になる場合もあります。
だからこそ、インターネットで見つけた示談書のひな形を、そのまま使えば安心というわけではありません。
特に、ケガや後遺症が関係する事故では、示談書を作成する前に専門家へ相談することが大切です。
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■ では、施術者はどうすればいいのか?
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ここまで読んで、
「なんだか怖い話ばかりですね」
と思った方もいるかもしれません。
でも、必要以上に怖がることはありません。
大切なのは、万が一のときに慌てないよう、日頃から準備しておくことです。
僕がおすすめしたいのは、次のような対応です。
【1】施術前の説明を丁寧に行う
施術内容や考えられるリスクについて、患者さんに分かりやすく説明する。
専門用語ばかり使うのではなく、相手に伝わる言葉で説明することが大切です。
【2】施術録をきちんと残す
施術前後の状態や患者さんの訴え、実施した施術内容などを記録する。
特に、普段と違う症状があった場合は、その内容や対応を記録しておきましょう。
【3】事故が起きたら、患者さんの安全を最優先する
事故が発生した場合、まず行うべきことは、示談の話ではありません。
患者さんの状態を確認し、必要に応じて救急要請や医療機関への受診につなげることです。
そのうえで、事故の状況を記録し、関係者への連絡を行います。
【4】賠償責任保険の内容を確認しておく
皆さんは、ご自身が加入している賠償責任保険の内容を把握していますか?
どのような事故が補償対象になるのか。
事故が起きた場合、どこへ連絡すればいいのか。
示談交渉のサポートがあるのか。
こうしたことは、事故が起きる前に確認しておきたいところです。
【5】示談を急がず、専門家に相談する
事故の原因や損害の範囲がはっきりしない段階で、安易に示談を進めない。
必要に応じて保険会社や弁護士に相談し、適切な手順で対応することが重要です。
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■ 一人で開業している施術者ほど注意してほしい
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僕が特にこの話をお伝えしたいのは、一人で訪問鍼灸マッサージを経営している方です。
一人で開業していると、何でも自分で判断しなければならない場面が多いですよね。
患者さんへの対応。
ご家族への説明。
ケアマネジャーさんへの報告。
医師との連携。
そして、万が一の事故対応。
大きな事業所であれば、責任者や事務担当者などに相談できるかもしれません。
しかし、一人で経営している場合、すぐに相談できる人がいないこともあります。
そんな状況で患者さんやご家族から強く責められたら、冷静に判断できなくなる可能性があります。
「とにかく謝って、お金を払って終わらせよう」
そんな気持ちになるかもしれません。
でも、それが必ずしも正しい解決方法とは限りません。
だからこそ、事故が起きたときの対応手順を、事前に決めておくことが大切です。
例えば、事故が起きたら、まず何をするのか。
誰に連絡するのか。
どのような記録を残すのか。
どの段階で保険会社に相談するのか。
こうしたことを整理しておくだけでも、いざというときの対応は変わってくると思います。
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■ 最後に、お伝えしたいこと
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今回は、施術事故やトラブルが発生したときの「示談」についてお話ししました。
施術者として一番大切なのは、もちろん事故を起こさないことです。
しかし、どれだけ注意していても、事故やトラブルの可能性を完全になくすことはできません。
だからこそ、万が一のときに適切に対応できる準備が必要なんです。
特に覚えておいていただきたいのが、
「示談書にサインをもらえば、すべて終わり」とは限らない
ということです。
事故の内容によっては、後から新たな症状が判明する場合もあります。
また、示談をしたときの認識に重大な違いがあれば、合意の効力や範囲が問題になることもあります。
だからこそ、焦って解決しようとしないこと。
そして、患者さんの安全を最優先にしながら、事実関係を確認し、必要に応じて専門家に相談することが大切です。
もう一つ、僕が重要だと思っていることがあります。
それは、
「信頼関係があるから大丈夫」と思い込まないことです。
訪問鍼灸マッサージは、患者さんのご自宅や施設に伺って施術をする仕事です。
患者さんとの距離も近く、長いお付き合いになることも多いですよね。
だからこそ、患者さんとの信頼関係は本当に大切です。
しかし、普段どれだけ仲良くしていても、事故が起きれば状況は変わる可能性があります。
患者さん本人は納得していても、ご家族から厳しい指摘を受けることもあるでしょう。
そんなときに必要なのは、感情的にならず、誠実に対応することです。
そして、日頃から説明と記録を大切にしておくこと。
施術の技術を磨くことも大切ですが、それと同じくらい、患者さんとのトラブルを防ぐ知識を身につけておくことも重要だと思います。
特に、一人で訪問鍼灸マッサージを経営している方は、ぜひ一度、ご自身の事故対応について見直してみてください。
事故が起きてから慌てるのではなく、事故が起きる前に準備しておく。
それが、自分自身を守ることにも、患者さんを守ることにもつながります。
施術者として大切なのは、事故を防ぐ努力と、万が一のときに適切に対応できる知識の両方を持つことです。
ぜひ、今回のお話を参考にしていただければと思います。