こんにちは、黒羽です。
今日は、訪問鍼灸・訪問マッサージをやっている人なら、誰もが一度はぶつかる
「成果が分かりにくく、評価されにくい苦しさ」
について、かなりリアルな話をしたいと思います。
これは、技術の問題でも、努力不足でもありません。
訪問という仕事の構造そのものが、施術者の心を削りやすい形になっている、という話です。
■ 「劇的に変わらない」ことから始まるモヤモヤ
例えば、脳梗塞後の片麻痺で車いす生活の80代の方に、
週2〜3回、訪問マッサージと関節可動域訓練を、半年以上続けているケースを想像してください。
施術者の感覚では、
・股関節や膝のこわばりが少し柔らかくなっている
・ベッド上での寝返りが前よりスムーズになっている
・関節の抵抗感が以前より減っている
こうした「確かな変化」を感じています。
でも、見た目では
「相変わらず歩けない」
「車いすのまま」
です。
本人やご家族の期待が、
「また歩けるようになる」
「杖で歩けるようになる」
といった“大きな変化”に向いていると、
「半年やっても、まだ歩けないんですね…」
「正直、良くなっているのか分かりません」
という言葉になって返ってきます。
施術者の頭の中では、
「拘縮が進んでいないだけでも本当はすごいことなのに…」
と分かっていても、それをうまく説明できず、
言葉に詰まり、モヤモヤだけが残ります。
■ 「維持できていること」は評価されにくい
パーキンソン病や変形性膝関節症などでも同じです。
本来なら半年〜1年で動作能力が一気に落ちてもおかしくないところを、
「なんとか今までの生活レベルを維持できている」
というケースは本当に多いです。
でもここには、大きな落とし穴があります。
“悪化しなかった未来”は、誰の目にも見えない。
ご家族もケアマネも、見えるのは
「前と同じに見える」
という現実だけ。
その結果、
「別にやってもやらなくても同じでは?」
「リハビリ特化型デイのほうが変化が分かりやすいですね」
といった比較が出てくる。
すると施術者は、
「長期維持」という一番難しい仕事をしているのに、
まるで「何もしていない人」扱いされてしまう感覚になります。
■ たった一言で自信を失う典型パターン
こんな流れ、かなりよくあります。
最初の説明では、
「拘縮予防・疼痛軽減・ADLの維持が目的です」
と伝えたつもりだった。
でも家族側は、
「少しはまた歩けるようになるんですよね」
と期待していた。
数か月後、ケアマネのモニタリングで、家族がこう言う。
「マッサージ続けているけど、あまり変わった気がしないんです」
ケアマネも
「ほかのサービスに切り替えたほうがいいかもしれませんね」
と続ける。
施術者の頭の中には、
・可動域が○度広がっている
・夜間痛が減って、睡眠時間が増えている
・痛み止めの回数が減っている
という“事実”があるのに、
それを数値や形にして共有できていないと、場の空気に飲み込まれてしまう。
帰り道で、
「自分の施術って意味あるのかな」
「もっと劇的な効果を出せないとダメなのか」
と、静かに自信が削られていく。
これは、本当によくある話です。
■ 本人の「体感」とのズレも、心を削る
高齢者には、
「今日は調子いい」
「今日は全然ダメ」
という日内・日差の波があります。
施術者から見れば、
少しずつ右肩上がりで良くなっている。
でも本人の意識は、
“今日の調子”にすべて持っていかれる。
その結果、
「今日はあんまり効かなかったね」
「前の先生の方が楽だった気がする」
と言われてしまう。
本人は悪気なく、その日の正直な感想を言っているだけ。
でも施術者は、
「自分は下手なのかな」と、真に受けてしまう。
これが何件も重なると、
「どれだけ頑張っても評価されない仕事」
という感覚に、少しずつ近づいていきます。
■ 不正請求イメージとのダブルパンチ
さらに追い打ちをかけるのが、
「訪問マッサージ=保険ビジネス」「不正請求の温床」
といった世間のイメージです。
真面目に、
・拘縮を防ぎ
・褥瘡を防ぎ
・痛みの悪化を防ぎ
・介護負担の増大を防ぎ
という“目に見えない貢献”を積み重ねているのに、
「結局、保険ビジネスなんでしょ?」
という一言で、心の奥をズタッと切られる。
まじめな人ほど、この言葉を必要以上に重く受け止めてしまいます。
■ この悩みを少し軽くするための方向性
この苦しさをゼロにすることは難しいですが、
軽くすることはできます。
ポイントは大きく3つです。
まず1つ目。
「維持・悪化防止」も“成果”だと分かるように、
可動域、痛みのスケール、立ち上がり回数、歩行距離、睡眠時間などを、
簡単でもいいので“見える化”して残すこと。
2つ目。
初回〜初期の段階で、
「劇的改善ではなく、現実的なゴール」をしっかりすり合わせておくこと。
ここが曖昧だと、後から必ずズレが出ます。
そして3つ目。
1か月ごと、3か月ごとなど節目で、
「もし何もしていなかったら、どんな悪化が起きていた可能性があるか」
も含めて、家族・ケアマネに短くフィードバックする習慣をつくること。
これがないと、どれだけ真面目にやっていても
「やっている意味が分からない」と言われ続け、
施術者の自己評価がどんどん削られていきます。
■ 最後に
訪問鍼灸・訪問マッサージは、
「治る・治らない」だけで測れる仕事ではありません。
むしろ、
“悪くさせない”という、いちばん難しくて、いちばん評価されにくい仕事
を、日々やり続けているのが、訪問の施術者です。
もし今、
「自分は報われていない気がする」
「ちゃんと意味がある仕事なんだろうか」
と感じている人がいたら、
その苦しさは、あなたの技術不足ではなく、
仕事の性質そのものが抱えている構造的な問題 だということだけは、
どうか知っておいてほしいと思います。