こんにちは、黒羽です。

今回は少し重たいテーマですが、訪問鍼灸・訪問マッサージの施術者であれば、誰もが一度は考えておくべき内容です。

それは──
「施術中に利用者が急変・死亡された場合の対応」について。

普段は元気に施術していても、訪問先の利用者は高齢で、心疾患・脳疾患・糖尿病などの持病をお持ちの方が多いものです。
そのため、たとえ施術と因果関係がなくても、亡くなられた際にご遺族や関係者から「マッサージが原因では?」と疑問を持たれることがあります。

こうした時に、何を言うか・どう対応するかで、信頼関係が守られるか、トラブルになるかが決まります。


■1. 施術中に心疾患を発症された場合

まず大切なのは、
「施術との因果関係を自分の口で判断・説明しない」ということです。

「血行が良くなって心臓に負担がかかったのかもしれません」
「うちの施術が影響した可能性も…」
といった言葉は、善意であっても“責任を認めた”と取られてしまいます。

このような場合は、
「現時点では因果関係は分かりません。主治医に確認をお願いしてください。」
と、冷静に伝えることが正しい対応です。

また、ご遺族が特に追及していない段階で「主治医に確認してください」と持ち出すのも逆効果です。
それは“自分の身を守るため”の行動に見えてしまい、ご遺族の気持ちに寄り添う対応とは言えません。

葬儀に参列するかどうかは、個人的な関係性の深さで判断しましょう。
近年は家族葬も多く、かえってご遺族に気を遣わせてしまう場合もあります。


■2. 入院中に亡くなられたケース

次に、施術事故などで腰椎圧迫骨折などが発生し、その後入院・死亡された場合です。

もし圧迫骨折と施術との因果関係が明確であれば、
入院・通院に関わる治療費は施術者が負担する必要があります。

この場合は示談の流れになりますが、手順は明確です。

  1. 相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明を確認

  2. 相続人代表者との間で示談書を交わす

  3. 全相続人から代表者に示談金を受け取る同意書を提出してもらう

金額を決めた上で正式に文書で取り交わすことで、後のトラブルを防げます。


■3. ご遺族から「言いがかり的な請求」が届いた場合

実際に起こった事例では、
「適切な助言をしていれば長く生きられたはずだ」として
弁護士から200万円の損害賠償請求書が届いたケースもあります。

この場合、施術者側は冷静に対応し、
「故人の既往症は施術適応外であり、施術者は医師ではないため特定の傷病を診断・助言する法的義務はない」
として、責任を全面的に否定しました。

結果、施術者側の責任は認められず、請求は棄却されました。


■まとめ:冷静さと記録が、最大の防御

訪問現場では、どんなに丁寧に施術していても、予期せぬ事態は起こり得ます。
だからこそ、日頃から次の3つを意識しておくことが重要です。

  • 施術記録(日報・カルテ)を必ず残す

  • 因果関係の判断は医師に委ねる

  • 感情的な発言は避け、誠実に対応する

トラブル対応は「発生後に慌てる」よりも、「発生前に備える」ほうが何倍も大切です。
いざという時に落ち着いて行動できるよう、チーム内でシミュレーションしておきましょう。