こんにちは、黒羽です。

訪問鍼灸をしていると、こんな矛盾にぶつかることがあります。

● 医師は「歩けるから通院できるでしょ」と言う

● でも患者さんは「歩くのが怖い」「転びそうだから絶対に外には出られない」と訴える

● そして現場のあなたは「この方は明らかに訪問が必要だ」と感じている

さて、このときあなたならどうしますか?

保険で施術する以上、
ルールと患者の願いの板挟みにあう瞬間が、必ず訪れます。

制度の建て付け上、「往療が必要かどうか」は施術者判断

まず前提として、
鍼灸マッサージの保険制度において「往療の必要性」は、
施術者の判断で請求して良いことになっています。

医師が「往療が必要です」と書かなくても、
往療料は別途の判断で算定してOKなんですね。

でも。

ここで大事なのは、「OKだけど、安全とは限らない」という点なんです。

医師が「往療不要」とはっきり言った時点で、リスクが生まれる

● 医師は「歩ける」と明言

● 施術者は「訪問が必要」と判断

● そして往療料も保険で請求したい

この状態で請求してしまうと、
保険者からの調査が入る可能性がぐんと高まります。

たとえば…

・実地調査で「患者が普通に歩けていた」と記録された

・医師に確認が入り「私は往療が必要とは思いません」と回答された

・患者が「通うのが面倒だからお願いしただけ」と言ってしまった

こうなると、
「往療の必要性がなかった」と判断され、不支給・返戻のリスクが生じます。

さらに悪化すると、
「不正請求」とされ、行政処分や返還命令の可能性もゼロではありません。

ではどうする?現場で取れる“現実的な対応策”

では、医師がNOと言っている中で、
「でも本当は訪問が必要だ」と感じている場合、どうするか?

現実的な選択肢はこの2つです。

① 往療料は請求せず、施術料だけ保険で処理する

往療分は自費対応にして、患者さんにもそのように説明します。

「先生が“通える”と判断されているので、制度上は施術料のみ保険対応で、往療料は自費になります。ご了承ください」

このやり方は制度上も安全で、
患者さんとの信頼関係も守りやすい対応です。

② 主治医に「現状維持目的の訪問が必要」と説明してみる

時間が許すなら、
主治医に現状の筋力・転倒リスク・環境面(坂道・階段など)を丁寧に伝え、

「外出できるが、現状維持には訪問の方が望ましい」という柔らかい表現で説得を試みるのも手です。

たとえば:

「歩行は可能ですが、屋外歩行になるとバランスが崩れてしまい、実質的には通院困難な状態です。安全面も考慮し、在宅での施術をご理解いただければ…」

このやりとりを経て、医師が「なるほど、じゃあ仕方ないですね」と了解してくれれば、

堂々と往療請求が可能になります。

③ 環境面を記録・保管しておく(自衛策)

たとえば、

  • 玄関に段差がある

  • 階段を下りないと外出できない

  • 独居で付き添いがいない

こうした要素を、カルテや報告書に記録しておくことで、将来の調査リスクに備えることも重要です。

まとめ

・往療料は施術者の判断で請求可能だが、“医師が否定している”場合はリスクが高い

・安全なのは「施術料のみ保険」「往療料は自費」という分け方

・医師が柔軟なタイプなら、現状維持の観点から再説得も可能

・患者の生活状況(坂・階段・独居など)を記録に残しておくと安心

・ルールを守りながら、患者さんの希望にも応える工夫が、信頼につながる


“制度を守る”と“患者さんに寄り添う”は、両立できないように見えて、

実は工夫次第でどちらも実現できます。

そのカギを握っているのが、
「伝え方」と「記録の残し方」なんです。

ぜひ、今回の内容をあなたの現場でも活かしてみてください