こんにちは、黒羽です。
同じ「訪問での身体ケア」でも――
理学療法士(PT)が行うリハビリと、私たちマッサージ師が行う訪問マッサージは、資格も内容も、使える保険制度もまったく違います。
そしてこの違いを理解しておくと、
ケアマネや医師との連携も、ぐっとスムーズになるんです。
「自分たちは医療保険だけなのに、PTは介護保険も使えるの?」
「どう違うの?患者さんは混乱しないの?」
――そんな疑問に、今日はしっかりお答えしていきます。
① 資格と役割の違い
まず大前提として、訪問リハビリと訪問マッサージでは、持っている資格そのものが異なります。
訪問リハビリを行うのは、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)といった、医療系リハビリ職の国家資格者たちです。
彼らの主な役割は、日常生活動作、いわゆるADL(食事・歩行・トイレなど)を改善・回復させることです。
動けるようになる、立ち上がれるようになる、日常の生活動作が少しでも自立できるように――
そういった「能動的な訓練」がメインになります。
一方、訪問マッサージを担当するのは、あん摩マッサージ指圧師という国家資格を持つ施術者です。
私たちの役割は、筋肉のこわばりや関節の硬さを緩めること、血流を促進すること、関節の可動域を維持・拡大することなどが中心です。
これは、日常動作の前段階にある、身体の土台を整えるためのケアであり、
患者さんの体を「受け身」で支える、いわば「受動的な支援」になります。
つまり、
理学療法士が「動ける体を作る」ために能動的なアプローチをするのに対し、
マッサージ師は「動ける体を保つ」ために受動的なアプローチをする、
目的もアプローチ方法も違う、補完関係にある存在なんです。
決してどちらが上、どちらが下というものではなく、
役割が違うだけ。
そして、だからこそ併用されると効果が高まると言われているのです。
② 使える保険制度の違い
ここが、患者さんやケアマネさんにとって最も混乱しやすいポイントです。
まず、理学療法士(PT)などが行う訪問リハビリには、
「医療保険」を使うケースと「介護保険」を使うケースの2種類があります。
医療保険で行う場合は、主に急性期や治療後の回復段階に該当し、医師の判断により提供されます。
一方、介護保険で行う訪問リハビリは、要介護者に対する生活支援・機能維持が目的で、ケアマネージャーのケアプランに組み込まれることで実施されます。
つまり、PTが提供するリハビリは、
医師の指示で医療保険を使って行うケース
ケアマネのケアプランに基づき、介護保険で行うケース
の2パターンがあるということです。
対して、私たちあん摩マッサージ指圧師が行う訪問マッサージは、
医療保険のみで対応します。
しかも、保険請求を行うには、医師による同意書が必ず必要です。
施術者自身が医師に同意書をお願いし、書いてもらった上で保険申請を行います。
ここで強調したいのが、訪問リハビリ(介護保険)と訪問マッサージ(医療保険)は併用可能であるという点です。
これは制度上はっきりと認められており、
「どちらか一方しか使えない」という誤解をしているケアマネやご家族もいらっしゃいますが、
目的や内容が違うため、同時に受けても問題ありません。
リハビリとマッサージを組み合わせることで、
より患者さんの生活機能改善や苦痛の軽減が期待できるのです。
③ 訪問リハビリと訪問マッサージ、施術内容の違い
大まかに分けると、こうなります。
訪問リハビリ(PT等)
→ 立ち上がる練習・歩く練習・トイレ動作の訓練などの「日常動作の改善」にフォーカス
→ 介護保険枠内での訓練なので、ケアプランに入っている必要がある
訪問マッサージ(マッサージ師)
→ 筋肉の硬直や関節拘縮を和らげる、血流を促す、浮腫を改善するなど「状態の維持・改善」が目的
→ 医療保険を使って、日常動作の“前段階”を支える施術が中心
つまり、患者さんにとっては――
訪問リハビリ=動けるようにする訓練
訪問マッサージ=動くための体を整える準備
このようにセットで受けることで、より高い効果が期待できるというわけです。
④「PTさんがマッサージしてるんですけど…」という勘違い
現場ではよくこんな声を聞きます。
「理学療法士さんがマッサージしてくれてるから大丈夫です」
「訪問リハビリで揉んでもらってます」
でも実際には、PTがマッサージを業務として行うことはできません。
医師の指示の範囲内で、筋緊張の評価や触診的アプローチをすることはありますが、
マッサージという名称でサービスを行うことは法的に認められていません。
なので、訪問マッサージを希望する場合は、必ずあマ指の国家資格保持者が行う必要があるという点を、丁寧に説明してあげましょう。
⑤ 私たちが伝えるべきこと
訪問マッサージ=「介護保険を圧迫しないサービス」
訪問マッサージ=「ケアプランを邪魔しない」
訪問マッサージ=「リハビリの前に必要な体づくり」
こういった価値を、ケアマネさんやご家族、患者さんに伝えていくことが大切です。
そして、PTや看護との連携が取れる施術者ほど、紹介も増え、信頼も積み上がっていきます。
まとめ
・理学療法士とマッサージ師は資格も役割も明確に違う
・PTの訪問リハビリは介護保険・医療保険の両方が使える
・マッサージ師の訪問施術は医療保険のみ(同意書が必須)
・併用は制度上OK。むしろ“補完関係”として効果的
・患者さんにとって「リハビリ+マッサージ」の両輪が理想
・正しい制度理解が、連携と信頼につながる
「私たちは医療保険しか使えない」
たしかにそうです。
でも、その分ケアマネや医師のプランを邪魔せず、
“専門家としての役割”をまっすぐ果たせるのも、私たちの強みです。